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前立腺がんの診断と治療
増えつつある前立腺癌
前立腺癌はアメリカでは男性で一番多い癌であり、近年になって日本でも急増しており、臓器別がん死亡率(2015/1995年)では、すべてのがんの中でもっとも増加率の高い(2.93倍)と予測されている癌です。疫学的には、ハワイの日系人ではアメリカと日本のちょうど中間の発生率であることから、前立腺癌の増加は、高脂肪食などの生活習慣の欧米化が大きく関与している可能性があると考えられています。また、癌の診断技術の向上、高齢化社会もその増加に寄与していると考えられています。
前立腺癌の確定診断
診断に至るまでの流れとしては、まず、癌のスクリーニング検査を行います。前立腺癌に関しては腫瘍マーカーPSA(前立腺特異抗原)の測定(採血)がこれに相当します。最近、千葉県の多くの市町村では、50歳以上の男性を対象に前立腺癌検診を行うようになり、基準値を超える患者さまが泌尿器科を受診されるようになりました。当クリニックでは、受診されたらPSAを再検査し、直腸指診(前立腺癌では硬結を触れることが多い)や超音波検査を行います。
いよいよ癌が疑わしいとなれば、確定診断をつけるためには、経直腸超音波ガイド下に針生検を行い、前立腺の組織を採取し、病理組織診断を行う必要があります。この場合、当クリニックでは成田赤十字病院に紹介させていただくことになります。前立腺生検には2泊3日の入院が必要となります。
病期診断
針生検結果で前立腺癌と病理学的に確定診断がつけば、次に行うのは病期診断(癌の広がりを調べること)です。全身の転移の有無や局所の浸潤の程度を画像にて評価します。通常、腹部骨盤CT、MRI、骨シンチグラフィーの3つの検査を行います。これらの画像検査で、局所の癌浸潤やリンパ節転移、他の臓器への転移、骨転移(前立腺癌は転移先として骨転移が多くみられます)の有無とその程度を評価します。これらの画像所見と直腸指診の所見から大きく分け4つの病期(病期AからD)に分類します。
前立腺癌の治療
病期分類がすんだら、おのおのの病期に応じた治療を行います。治療法は画像の評価だけでなく、針生検の病理組織検査の結果、患者さまの年齢や合併症、患者さまの希望などを考慮に入れ決定します。治療法の柱としては、手術療法、放射線療法、内分泌療法の3つの柱があり、場合によってはそれらの治療を組み合わせて治療します。
内分泌療法とは、前立腺癌の多くが、精巣などから分泌される男性ホルモンの存在下では増殖の方向に働く性質をうまく利用した治療法で、大きく分け男性ホルモンを作るのを抑える薬剤(注射薬)と男性ホルモンが前立腺癌細胞に作用するのをブロックする薬剤の2種類があります。前者は、精巣を摘除すること(去勢)でも可能であります。前者のみ行う場合や、前者、後者ともに行う場合もあります。この治療法は、癌の進行を抑える治療ですが、通院治療でよく、大きな副作用もなく継続できる点で高齢者にもおすすめです。
治療の効果判定でもっとも有用なのは腫瘍マーカーであるPSA値の推移であり、病勢をよく反映します。内分泌療法は当クリニックでも通院にて行うことができます。また、従来の内分泌療法に加え、新しい内分泌療法の薬も開発され臨床応用されています。前立腺癌の骨転移を抑える作用のある注射もあり治療法は多岐にわたります。
最近では、従来の治療法に加え、手術では腹腔鏡を用いた手術、ロボットを用いた手術も広く行われており、放射線療法では、従来の3D-CRT、IMRTのほか重粒子線治療、小線源療法など種類も豊富で、前立腺癌に対する新しい治療法が次々と臨床応用されつつあり、その治療効果が期待されています。
さいごに
前立腺癌はその発生から臨床症状が認められるまでには約35~40年もかかるといわれており、比較的成長のゆっくりとした癌であると言われています。
腫瘍マーカーPSAが普及する以前は、腰痛を主訴に整形外科や内科を受診し、精査して初めて前立腺癌が見つかるケースが多く見受けられましたが、現在では、PSAを泌尿器科以外の医師も調べることも多くなり、また、市町村の前立腺癌検診が行われるようになり、初期の前立腺癌患者も多く発見されるようになりました。
前立腺癌も初期のうちは無症状で経過します。50歳を過ぎた男性の方は、ぜひ、前立腺癌検診を受けられることをお薦めいたします。
(注)この文章は、院長(中町)が成田赤十字病院に在籍中、成田赤十字病院のホームページに記載した内容を一部改変し作成しました。